自社株買い(自己株式の取得)とは
自社株買い(自己株式の取得)とは、企業が自社の株式を買い戻すことを言います。自社株買いは株主還元策や資本政策の一環として、「株主還元の充実」や「資本効率の向上」を目的として実施される場合が多いです。
そのほか、「役職員に対するインセンティブとしての株式報酬」や「新株予約権の権利行使時に交付する代用自己株式」として自己株式が必要であることから自社株買いを実施する場合や、「既存株主による自社株式の売却意向」を受けての自社株買い、「株式の売出しによる株式需給への影響の緩和」などを目的とした自社株買いもあります。
また、「自社株買いをするほどに自社の株価が割安な状態である」とのメッセージを企業が送っているという解釈もできます。
自社株買い(自己株式の取得)の株価への影響
自社株買い(自己株式の取得)が実施されると、取得された自己株式の分だけ市場に出回る株式数が減少します。また、それにともないEPS(1株当たり純利益)やBPS(1株当たり純資産)、ROE(自己資本利益率)が上昇するなどの影響もあるため、一般的に自社株買いは株価にプラスの影響があると言われています。
しかし、株式の「取得方法」や「取得される自己株式の割合」によっては、「自社株買いが発表されたものの株価がほとんど動かなかった」という場合もあります。
まず、株式の取得方法が「市場買付」である場合は、自社株買いの実施によって浮動株(市場で流通する可能性の高い株式)が減少することになるので、株価にはプラスの影響が出ます。
ちなみに、取得される自己株式の割合は、企業が自社株買いを実施する際に開示する「自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ」等において「発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合 〇%」といった形で記載されています。この取得される自己株式の割合が大きいほど、株価への影響も大きくなります。
一方で、株式の取得方法が「自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)」であったり、株式の取得相手が特定の大株主に限定されていたりする場合は、そもそもの取得対象となる株式が「創業者や金融機関、親会社、取引企業などの大株主が安定保有していた株式」である可能性が高いです。そういった流動性の低い株式を自社株買いによって取得したとしても、浮動株(市場で流通する可能性の高い株式)が減少するわけではないため、「市場買付」に比べて株価への影響は小さくなります。
自己株式の消却と株価への影響
自己株式の消却とは、企業が保有する自己株式を消滅させることを言います。自己株式を消却することにより発行済株式総数が減少するほか、処分された自己株式は再び市場に出回る可能性がなくなるため、自己株式の消却は株価にプラスの影響があります。
なお、自己株式の消却は自社株買いとセットで発表されたり、自社株買いの発表からある程度の時間を経て発表されることがあります。そのため、自社株買いが発表された段階で自己株式の消却も見越した株価変動が生じることがありますが、自社株買いが実施されたからと言って、必ずしも自己株式の消却が行われるとは限らないため注意が必要です。
消却されていない自己株式は、長期にわたって企業が保有し続ける場合もありますが、従業員や役員などに対する譲渡制限付株式報酬として処分されたり、持株会や株式給付信託などへの第三者割当として処分されたりすることもあります。これらの処分方法であれば株価への影響は限定的ですが、「公募による自己株式の処分」などとして大量の自己株式が市場へ売り出される場合もあり、そうなると、少なくとも短期的には株価へのマイナス影響が大きくなります。